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退職所得とは

 退職金は支払時に法人の損金となるとともに、受取った個人については退職所得として税金の計算が有利な所得とされます。これは退職を原因として受取る金員は、退職者が長期間、当該事業所に勤務してきたことに対する報償であるとともに、退職後の生活保障の機能を有することから税制上、優遇されるよう規定されているものです。それでは何をもって退職所得とされるのでしょうか。退職所得の意義について争われた判例を検討してみたいと思います。

【事案の概要】                                               ・A社の給与規程には「勤務年数が会社設立後又は本人の就職後5年、その後5年を加算した時期が到来した場合」に退職金を支給する旨が定められていた。                                     ・これに基づきA社は従業員に5年毎に退職金を支払っていた。                         ・当該支給を受けた従業員は再入社のための手続等はなく、そのまま就労を継続し、賃金その他の労働条件も従前と変わることなく継続されていた。                                         ・X税務署長は、この支給は賞与であって給与所得であるとして、源泉徴収納付の告知処分を行った。        ・A社はこれを不服として不服申立を経て提起した。                              ・因みに、5年ごとに退職金を支払う規定は、当時、中小企業が営業を停止し退職金を支払わずに従業員を解雇する事例が相次いで起こったたため、A社の労働組合から申し入れたため設けられた規定であった。

【事案についての考察】                                            終身雇用制度が崩れつつある昨今においては、退職金規定を廃止し給与に上積みするような企業も増えていると聞きます。一方、税制上は上記のように退職金については優遇措置をとっています。これが退職所得にあたるかどうかについては、下記の要件を備える必要があると考えられています。

(1)退職すなわち勤務関係の終了という事実によってはじめて給付されること                  (2)従来の継続的な勤務に対する報償ないしその間の労務の対価の一部の後払の性質を有すること         (3)一時金として支払われること

 本事案においては、「勤務関係の終了」という事実がなかったため、退職所得は否定されたものと考えられます。そのため、受給者においては、税制上の優遇は受けられませんでした。ただ、昨今の雇用情勢においては如何でしょうか。終身雇用の前提が崩れている中で、何らかの救済措置を検討する必要はあるものと考えています。因みに、下記の場合には退職所得として認められていますので、ご参照ください。

・ 使用人から役員になった者に対しその使用人であった勤続期間に係る退職手当等として支払われる給与      ・役員の分掌変等により、常勤役員が非常勤役員になったこと                          ・分掌変更の後における報酬が激減(おおむね50%以上減少)したことなどで、その職務の内容又はその地位が激変した者に対し、当該分掌変更等の前における役員であった勤続期間に係る退職手当等として支払われる給与        ・定年に達した後引き続き勤務する使用人に対し、その定年に達する前の勤続期間に係る退職手当等として支払われる給与                                                     ・定年を延長した場合において、その延長前の定年に達した使用人に対し旧定年に達する前の勤続期間に係る退職手当等として支払われる給与で、その支払をすることにつき相当の理由があると認められるもの              ・法人が解散した場合において引き続き役員又は使用人として清算事務に従事する者に対し、その解散前の勤続期間に係る退職手当等として支払われる給与

2016年07月07日

不法な所得に対する税金

雇用契約に基づく給与所得や請負契約に基づく事業所得など、通常、所得が発生し
所得税が課せられるには、適法な契約や法律関係があります。
それでは不法行為に基づく所得にも税金が課せられるのでしょうか。
民法では不当利得の返還請求権(703条)の規定があり、法律上の原因のない利益については、
返還義務を定めており、不法行為については所得が発生しないとも考えられます。
この点について争われた事例を紹介します。

【事案の概要】
Aは個人で金融業を営んでいた。Aは債務者との間で利息制限法を超える利率で約定していたが、
確定申告において、当該超過利息のうち、未収分については事業所得の収入金から除外して申告した。
甲税務署長は、これに対し超過利息分も含む収入金額を計算し、所得税の更正処分を行った。
Aは未収分の超過利息は、本来無効であり法律上債権も発生していないのであるから、
現実の支払を受けて初めて収入の金額に算入すべきとして訴訟となった。

 

この事例においては、制限超過利息のうち、実際に受け取った部分と未収部分に分けて検討されています。

先ず、実際に受け取った部分については、「経済的にみて、利得者が現実にそれを支配し、自己のために
享受している限り」不法利得も課税所得を構成するというものです。これに対して制限超過利息は、
元本に充当するか、不当利得の返還請求を受けるのであるから、所得を構成しないという考え方もありますが、
判例では「債務者が利息制限法の保護を求めない限り」債権者の経済的利得になるとして、所得を構成する
という立場を取っています。

一方、未収部分についてどのように考えるのでしょうか。
「制限超過利息はその基礎となる約定自体が無効であり、約定の履行期が到来しても債権が生じることなく、
債務者が任意の支払をすることを事実上期待しうるにとどまるのであり、収入実現の蓋然性があるとはいえない」
ことを理由に、所得を構成しないという立場を取っているようです。

違法行為によるものであっても、原則として所得税が課されるということですが、この考え方を未収部分にまで
広げてしまうのは、ちょっと拡大しすぎなのかもしれませんね。

2016年05月09日

課税対象とは何か

課税されるものなのか、課税されないものなのか。
普段、何気なく生活している中でも、こんな疑問を持たれたことはありませんか。
特に消費税については、よく疑問を持たれることではないでしょうか。
この点、基本的には税法において定められているのですが、その税法の解釈について
いろいろな考え方が議論されるところです。
ここで税法の解釈を巡って争われた判例について考えてみたいと思います。

【事案の概要】
・A社は競走用自動車の製造販売を営む会社であり、競走用自動車4台を製造・移出した。
・当時は物品税法で「小型普通用四輪自動車」は課税対象とされていた。
・これについてY税務署長はA社の競走用自動車に対し、物品税の賦課決定処分および
 無申告加算税の賦課決定処分を行った。
・A社はこれを不服として訴訟となった。

ここで、注目すべきはA社の主張でしょう。要旨を纏めますと、
「本件における各自動車は、その規格から小型四輪自動車に該当するが、その構造、
装置が道路運送車両法所定の保安基準に適合しないため、法令上は道路を走行することができず、
専ら自動車競走場における自動車競走のためにのみ使用されるものである。
よって「普通乗用」にはあたらない。」というものでした。

この裁判における最大の争点は「普通乗用自動車」に該当するかどうかということですね。
この判決における多数意見は、「ある自動車が普通乗用自動車に該当するか否かは、
当該自動車の性状、機能、使用目的等を総合して判定すべき」であり、本件自動車についても、
人の移動という乗用目的のために使用されるものであることに変わりはない、との解釈でした。

一方、反対意見は「およそ社会における自動車の目的は、人や物の運搬、すなわち、ある場所から
他の場所に運ぶことによる社会的、経済的効用を達成するところにある。一般に、自動車は必ず人が
運転するものであるから、本件の自動車もこの意味で人の乗用を伴うものであるが、
このこと自体で乗用自動車であるか、貨物自動車ないし特殊自動車であるかの指標にはできず、
従って、物品税法上の課税対象と定義することはできない」という主張でした。。

結局、判決では僅差で課税対象となったようですが、税法においても条文で使われている言葉の定義を
巡って様々な議論が交わされるものであるということを考えさせられる事例だと思います。

 

2016年03月28日

無償による役務の提供

法人税法は22条2項で益金に算入すべきものとして「資産の販売、
有償又は無償による資産の譲渡又は役務の提供、無償による資産の譲受け
その他の取引で資本等取引以外のものに係る当該事業年度の収益の額」
と定めています。
ここで無償による資産の譲渡や役務提供が益金となることの意義について
考えてみたいと思います。

【事案の概要】

X社は子会社A社に対して約3千万円の無利息融資を行った。
これに対しY税務署長は、本件無利息融資に対し、年率10%相当額を
寄附金と認定し、寄附金損金不算入額分を加算計上する更正処分を行った。
X社はこれを不服として異議申し立てを行った。

判決の考え方は以下のとおりです。
「法人税22条2項の規定は、それが私法上有効に成立した法律行為の結果として
生じたものであるか否かに拘わらず、また、金銭の形態をとっているかその他の
経済的利益の形をとっているかの別なく、資本等取引以外において資産の増加の
原因となるべき一切の取引によって生じた収益の額を益金に算入すべきものとする
趣旨と解される。そして資産の無償譲渡、役務の無償提供は、実質的に見た場合、
資産の有償譲渡、役務の有償譲渡によって得た代償を無償で給付したのと同じである
ところから、担税力を示すものとみて、収益発生事由としたものと考えられる。」

若干、わかりにくい表現ですが、簡単に言い換えると、無償の資産の譲渡や
役務の提供というのは、一旦有償による取引を行った後、その対価を無償で
相手に交付する行為、と捉えているようですね。
これを仕訳で示してみると、

現金預金  10,000    受取利息 10,000
寄附金   10,000    現金預金 10,000

このような考え方になります。
そして、収益計上した受取利息はそのまま益金となり、費用計上した寄附金については、
損金算入限度額の範囲内で損金として計上されることになります。

税務調査などで思わぬ指摘を受けないよう、無利息融資や無償の取引には
気を付けたいものです。

 

2016年03月17日

顧問料か給料か

弁護士等の士業の方は、顧客から受取る報酬の扱いが所得税法上、
事業所得なのか給与所得なのか判断に迷うことがあると思います。
これについて判例を参考に考えてみたいと思います。

【概要】
・X弁護士は×1年度から×3年度にいくつかの会社から受取った報酬を給与所得として申告した。
・これに対し甲税務署長は、当該報酬は事業所得にあたるとして更正処分を行った。 
・X弁護士はこれを不服として申立を行った。

【事業所得と給与所得の区分】
事業所得と給与所得の区分について、判決で示された考え方は下記のとおりです。
1)事業所得とは、自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性・有償性を有し
かつ反復継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務から生ずる所得をいう。
2)給与所得とは雇用契約又はこれに類する原因に基づき使用者の指揮命令に服して提供した
労務の対価として使用者から受ける給付をいう。
なお、給与所得については、給与支給者との関係において何らかの空間的、時間的な拘束を受け、
継続的ないし断続的に労務又は役務の提供があり、その対価として支給されるものであるかどうかが
重視されなければならない。

具体的な判断基準としては、拘束性や損失の危険負担、設備の利用状況などいくつかの要素を観察して
事業所得か給与所得かを区分することになります。
「実態を観察して判断する」と言われてもなかなか難しいですね。

 

2016年03月12日

時効と税金

土地の時効取得と税金の関係について、判例を参考に考えてみましょう。
まずは事案の概要を整理します。

【事案の概要】
・被相続人Aは、甲、乙、丙に対し、土地を1/3づつ相続させる遺言をしていた。
・当該土地はZにより占有されていた。
・Aが死去し、甲、乙、丙は当該土地の所有権持分登記を行うとともに相続税の申告書を提出した。
・一方、Zは当該土地について時効取得を理由とする所有権移転登記を求める訴えを提起し、勝訴した。
・土地を失った甲らは、相続による土地の取得はなかったものとして、相続税申告書の更生の請求を行った。
・更生の請求は認められず、裁判となった。


とても難しい論点ですね。相続したと思った土地が後から時効を援用された場合、相続税の更生が認められるかどうか。
納税者側からみれば、土地を失った上に相続税まで課せられたら大変なことになってしまいます。
しかしながら、裁判では納税者側の主張は認められませんでした。
理由のひとつとして「時効」に対する考え方があります。
「時効により所有権を取得する者は、時効を援用するまではその物に対する権利を取得しておらず、
一方、本来の所有者は占有者が時効を援用するまではその物に対する権利を有していた」ということができます。
そうしますと、相続の開始時点では時効が完成していなかったため、その時点で所有権を有していたといえます。
よって相続税が課せられると判断されたようです。
納税者にとっては踏んだり蹴ったりの結果になってしまったようですが、
くれぐれも不動産を取得する場合には、現地調査を怠らないようにしましょうね。

2016年03月10日