雇用契約に基づく給与所得や請負契約に基づく事業所得など、通常、所得が発生し
所得税が課せられるには、適法な契約や法律関係があります。
それでは不法行為に基づく所得にも税金が課せられるのでしょうか。
民法では不当利得の返還請求権(703条)の規定があり、法律上の原因のない利益については、
返還義務を定めており、不法行為については所得が発生しないとも考えられます。
この点について争われた事例を紹介します。
【事案の概要】
Aは個人で金融業を営んでいた。Aは債務者との間で利息制限法を超える利率で約定していたが、
確定申告において、当該超過利息のうち、未収分については事業所得の収入金から除外して申告した。
甲税務署長は、これに対し超過利息分も含む収入金額を計算し、所得税の更正処分を行った。
Aは未収分の超過利息は、本来無効であり法律上債権も発生していないのであるから、
現実の支払を受けて初めて収入の金額に算入すべきとして訴訟となった。
この事例においては、制限超過利息のうち、実際に受け取った部分と未収部分に分けて検討されています。
先ず、実際に受け取った部分については、「経済的にみて、利得者が現実にそれを支配し、自己のために
享受している限り」不法利得も課税所得を構成するというものです。これに対して制限超過利息は、
元本に充当するか、不当利得の返還請求を受けるのであるから、所得を構成しないという考え方もありますが、
判例では「債務者が利息制限法の保護を求めない限り」債権者の経済的利得になるとして、所得を構成する
という立場を取っています。
一方、未収部分についてどのように考えるのでしょうか。
「制限超過利息はその基礎となる約定自体が無効であり、約定の履行期が到来しても債権が生じることなく、
債務者が任意の支払をすることを事実上期待しうるにとどまるのであり、収入実現の蓋然性があるとはいえない」
ことを理由に、所得を構成しないという立場を取っているようです。
違法行為によるものであっても、原則として所得税が課されるということですが、この考え方を未収部分にまで
広げてしまうのは、ちょっと拡大しすぎなのかもしれませんね。