第11回講義レジュメ(民法②)

1.心裡留保(いわゆる冗談、戯言)

・意思表示は、表意者がその真意ではないことを知ってしたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。ただし、相手方が表意者の真意を知り、又は知ることができたときは、その意思表示は、無効とする(民法93条)。

原則は有効、相手方が表意者の真意を知っていた場合には無効

・ただし書の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない。

 

2.通謀虚偽表示

・相手方と通じてした虚偽の意思表示は、無効とする(民法94条1項)。

・前項の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない(同条2項)。

例えば仮装の土地取引を行った場合、当事者同士では無効であっても、善意の第三者(転売の買受人等)に対しては、その無効を主張できない。

 

3.錯誤

・意思表示は、次に掲げる錯誤に基づくものであって、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは、取り消すことができる

 ① 意思表示に対応する意思を欠く錯誤

 ② 表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤

・錯誤による意思表示の取消しは、その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたときに限り、することができる。

・錯誤が表意者の重大な過失によるものであった場合には、次に掲げる場合を除き、錯誤による意思表示の取消しをすることができない。

 ① 相手方が表意者に錯誤があることを知り、又は重大な過失によって知らなかったとき。

 ② 相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていたとき。

・錯誤による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。

 

4.詐欺又は強迫

・詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。

・相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその事実を知っていたとき又は知ることができたときに限り、その意思表示を取り消すことができる。

・詐欺による意思表示の取消しは、善意の第三者に対抗することができない。

・詐欺⇒善意の第三者に対抗できない。強迫⇒善意の第三者にも対抗できる。この違いは、本人の帰責性によるもので、詐欺の場合には本人に対し、一定の帰責性を認めている。

 

5.意思表示の効力発生時期等

・意思表示は、その通知が相手方に到達した時からその効力を生ずる。

・相手方が正当な理由なく意思表示の通知が到達することを妨げたときは、その通知は、通常到達すべきであった時に到達したものとみなす。

・意思表示は、表意者が通知を発した後に死亡し、意思能力を喪失し、又は行為能力の制限を受けたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。

・意思表示は、表意者が相手方を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、公示の方法によってすることができる。

・意思表示の相手方がその意思表示を受けた時に意思能力を有しなかったとき又は未成年者若しくは成年被後見人であったときは、その意思表示をもってその相手方に対抗することができない。ただし、次に掲げる者がその意思表示を知った後は、この限りでない。

 ① 相手方の法定代理人

 ② 意思能力を回復し、又は行為能力者となった相手方

 

6.代理

・代理人がその権限内において本人のためにすることを示してした意思表示は、本人に対して直接にその効力を生ずる

・代理人が本人のためにすることを示さないでした意思表示は、自己のためにしたものとみなす。ただし、相手方が、代理人が本人のためにすることを知り、又は知ることができたときは、本人に対して直接にその効力を生ずる。

・意思表示の効力が意思の不存在、錯誤、詐欺、強迫又はある事情を知っていたこと、若しくは知らなかったことにつき過失があったことによって影響を受けるべき場合には、その事実の有無は、代理人について決するものとする。

・特定の法律行為をすることを委託された場合において、代理人が本人の指図に従ってその行為をしたときは、本人は、自ら知っていた事情について代理人が知らなかったことを主張することができない。本人が過失によって知らなかった事情についても同様とする。

・制限行為能力者が代理人としてした行為は、行為能力の制限によっては取り消すことができない。ただし、制限行為能力者が他の制限行為能力者の法定代理人としてした行為については、この限りでない。

・委任による代理人は、本人の許諾を得たとき、又はやむを得ない事由があるときでなければ、復代理人を選任することができない。

・法定代理任は、自己の責任で復代理人を選任することができる。法定代理人の場合、自らの意思で代理人になるわけではないため、復代理人の選任を可能としている。

・復代理人はその権限内の行為について、本人を代表する。復代理人は、本人及び第三者に対して代理人と同一の権利を有し、義務を負う。

・同一の法律行為については、相手方の代理人となり、又は当事者双方の代理人となることはできない。ただし、債務の履行及び本人があらかじめ許諾した行為については、この限りでない。

・第三者に対して他人に代理権を与えた旨を表示した者はその代理権の範囲内においてその他人が第三者との間でした行為について、その責任を負う。ただし、第三者が、その他人が代理権を与えられていないことを知り、又は過失によって知らなかったときは、この限りでない。

・代理権の消滅事由

 ① 本人の死亡

 ② 代理人の死亡又は代理人が破産手続開始の決定若しくは後見開始の審判を受けたこと。

 ③ 委任の終了

・代理権を有しない者が他人の代理人としてした契約は、本人がその追認をしなければ、本人に対してその効力を生じない。この場合、相手方は、本人に対し、相当の期間を定めて、その期間内に追認をするかどうかを確答すべき旨の催告をすることができる。この場合において、本人がその期間内に確答をしないときは、追認を拒絶したものとみなす

・追認は、別段の意思表示がないときは、契約の時にさかのぼってその効力を生ずる。ただし、第三者の権利を害することはできない。

・代理権を有しない者がした契約は、本人が追認をしない間は、相手方が取り消すことができる。ただし、契約の時において代理権を有しないことを相手方が知っていたときは、この限りでない。

・他人の代理人として契約をした者は、自己の代理権を証明することができず、かつ、本人の追認を得ることができなかったときは、相手方の選択に従い、相手方に対して履行又は損害賠償の責任を負う。ただし、相手方が代理権を有しないことを知っていたとき、若しくは過失によって知らなかったとき、又は他人の代理人として契約をした者が行為能力の制限を受けていたときは、適用しない。

 

7.無効及び取消

・無効は最初から効力を生じないが、取消は一旦有効な法律行為とし、取り消さた場合に当初から無効となる。

・無効な行為は、追認によっても、その効力を生じない。ただし、当事者がその行為の無効であることを知って追認をしたときは、新たな行為をしたものとみなす。

・行為能力の制限によって取り消すことができる行為は、制限行為能力者又はその代理人、承継人若しくは同意をすることができる者に限り、取り消すことができる。

・詐欺又は強迫によって取り消すことができる行為は、瑕疵ある意思表示をした者又はその代理人若しくは承継人に限り、取り消すことができる。

取り消された行為は、初めから無効であったものとみなす。

・無効な行為に基づく債務の履行として給付を受けた者は、相手方を原状に復させる義務を負う。

・無効な無償行為に基づく債務の履行として給付を受けた者は、給付を受けた当時その行為が無効であることを知らなかったときは、その行為によって現に利益を受けている限度において、返還の義務を負う。

・無効な行為の時に意思能力を有しなかった者は、その行為によって現に利益を受けている限度において、返還の義務を負う。行為の時に制限行為能力者であった者についても、同様とする。

・取り消すことができる行為は取消権者が追認したときは、以後、取り消すことができない

・取り消すことができる行為の追認は、取消しの原因となっていた状況が消滅し、かつ、取消権を有することを知った後にしなければ、その効力を生じない。但し次に掲げる場合には、取消しの原因となっていた状況が消滅した後にすることを要しない。

 ① 法定代理人又は制限行為能力者の保佐人若しくは補助人が追認をするとき。

 ② 制限行為能力者(成年被後見人を除く。)が法定代理人、保佐人又は補助人の同意を得て追認をするとき。

・取り消すことができる行為について、次の事実があったときは、追認したものとみなす。ただし、異議をとどめたときは、この限りでない。

 ① 全部又は一部の履行

 ② 履行の請求

 ③ 更改

 ④ 担保の供与

 ⑤ 取り消すことができる行為によって取得した権利の全部又は一部の履行

 ⑥ 強制執行

・取消権は、追認をすることができる時から五年間行使しないときは、時効によって消滅する。行為の時から二十年を経過したときも、同様とする。

 

2022年09月20日