1.時効
・趣旨:一定期間継続した事実状態をもとに様々な法律行為が行われるため、この事実状態を否定してしまうと社会秩序が混乱しかねない。よって、法的にもこの事実状態を認めるのが時効の考え方である。
・時効の効力は、その起算日にさかのぼる。
・時効は、当事者が援用しなければ、裁判所がこれによって裁判をすることができない。
・時効の利益は、あらかじめ放棄することができない。
【裁判上の請求等による時効の完成猶予及び更新】
①裁判上の請求
②支払督促
③民事訴訟法第275条第1項の和解又は民事調停法若しくは家事事件手続法による調停
④破産手続参加、再生手続参加又は更生手続参加
これらの場合において、確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定したときは、時効は、当該事由が終了した時から新たにその進行を始める。
・強制執行、担保権の実行による事由がある場合には、その事由が終了する(申立ての取下げ又は法律の規定に従わないことによる取消しによってその事由が終了した場合にあっては、その終了の時から6か月を経過する)までの間は、時効は、完成しない。
・仮差押え、仮処分による事由がある場合には、その事由が終了した時から6か月を経過するまでの間は、時効は、完成しない。
・催告があったときは、その時から六箇月を経過するまでの間は、時効は、完成しない。
催告によって時効の完成が猶予されている間にされた再度の催告は、上記の催告による時効の完成猶予の効力を有しない。
【協議を行う旨の合意による時効の完成猶予】
・権利についての協議を行う旨の合意が書面でされたときは、次に掲げる時のいずれか早い時までの間は、時効は、完成しない。
①その合意があった時から1年を経過した時
②その合意において当事者が協議を行う期間(1年に満たないものに限る。)を定めたときは、その期間を経過した時
③当事者の一方から相手方に対して協議の続行を拒絶する旨の通知が書面でされたときは、その通知の時から6か月を経過した時
・協議を行う旨の合意により時効の完成が猶予されている間にされた再度の合意は、時効の完成猶予の効力を有する。ただし、その効力は、時効の完成が猶予されなかったとすれば時効が完成すべき時から通じて5年を超えることができない。
・催告によって時効の完成が猶予されている間にされた協議を行う旨の合意は、時効の完成猶予の効力を有しない。協議を行う旨の合意により時効の完成が猶予されている間にされた催告についても、同様とする。
・協議を行う旨の合意がその内容を記録した電磁的記録によってされたときは、その合意は、書面によってされたものとみなして、時効の完成猶予の規定が適用される。
・時効は、権利の承認があったときは、その時から新たにその進行を始める。
承認をするには、相手方の権利についての処分につき行為能力の制限を受けていないこと又は権限があることを要しない。
・時効の完成猶予又は更新は、完成猶予又は更新の事由が生じた当事者及びその承継人の間においてのみ、その効力を有する。
・時効の更新は、更新の事由が生じた当事者及びその承継人の間においてのみ、その効力を有する。
【所有権の取得時効】
① 二十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する。
② 十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その占有の開始の時に、善意であり、かつ、過失がなかったときは、その所有権を取得する。
【債権等の消滅時効】
債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
① 債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき。
② 権利を行使することができる時から10年間行使しないとき。
・債権又は所有権以外の財産権は、20年間行使しないときは、消滅する。
・人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権の消滅時効は20年間。
・確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって確定した権利については、10年より短い時効期間の定めがあるものであっても、その時効期間は、10年とする。ただし、確定の時に弁済期の到来していない債権については、適用しない。
2.物権
・物権は、この法律その他の法律に定めるもののほか、創設することができない。
・物権の設定及び移転は、当事者の意思表示のみによって、その効力を生ずる。
・不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。
・動産に関する物権の譲渡は、その動産の引渡しがなければ、第三者に対抗することができない。
・占有権は、自己のためにする意思をもって物を所持することによって取得する。
・占有者が占有物について行使する権利は、適法に有するものと推定する。
・取引行為によって、平穏に、かつ、公然と動産の占有を始めた者は、善意であり、かつ、過失がないときは、即時にその動産について行使する権利を取得する(即時取得)。
3.抵当権
・抵当権者は、債務者又は第三者が占有を移転しないで債務の担保に供した不動産について、他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有する。
・抵当権は、抵当地の上に存する建物を除き、その目的である不動産に付加して一体となっている物に及ぶ。
・同一の不動産について数個の抵当権が設定されたときは、その抵当権の順位は、登記の前後による。
・抵当権の順位は、各抵当権者の合意によって変更することができる。ただし、利害関係を有する者があるときは、その承諾を得なければならない。
・抵当権者は、利息その他の定期金を請求する権利を有するときは、その満期となった最後の2年分についてのみ、その抵当権を行使することができる。ただし、それ以前の定期金についても、満期後に特別の登記をしたときは、その登記の時からその抵当権を行使することを妨げない。
・抵当権者が債務の不履行によって生じた損害の賠償を請求する権利を有する場合におけるその最後の2年分についても適用する。ただし、利息その他の定期金と通算して2年分を超えることができない。
・抵当不動産について所有権又は地上権を買い受けた第三者が、抵当権者の請求に応じてその抵当権者にその代価を弁済したときは、抵当権は、その第三者のために消滅する(代価弁済)。
・土地及びその上に存する建物が同一の所有者に属する場合において、その土地又は建物につき抵当権が設定され、その実行により所有者を異にするに至ったときは、その建物について、地上権が設定されたものとみなす(法定地上権)。この場合において、地代は、当事者の請求により、裁判所が定める。
・抵当権は、債務者及び抵当権設定者に対しては、その担保する債権と同時でなければ、時効によって消滅しない。
4.根抵当権
・抵当権は、設定行為で定めるところにより、一定の範囲に属する不特定の債権を極度額の限度において担保するためにも設定することができる。
・不特定の債権の範囲は、債務者との特定の継続的取引契約によって生ずるものその他債務者との一定の種類の取引によって生ずるものに限定して、定めなければならない。
・根抵当権の担保すべき元本については、その確定すべき期日を定め又は変更することができる。期日は、これを定め又は変更した日から5年以内でなければならない。
・根抵当権設定者は、根抵当権の設定の時から3年を経過したときは、担保すべき元本の確定を請求することができる(元本確定請求)。この場合において、担保すべき元本は、その請求の時から2週間を経過することによって確定する。
・根抵当権者は、いつでも、担保すべき元本の確定を請求することができる。この場合において、担保すべき元本は、その請求の時に確定する。
5.債権
・利息を生ずべき債権について別段の意思表示がないときは、その利率は、その利息が生じた最初の時点における法定利率による。
・法定利率は、年3%とする。ただし、法定利率は3年ごとに変動する。
・利息の支払が一年分以上延滞した場合において、債権者が催告をしても、債務者がその利息を支払わないときは、債権者は、これを元本に組み入れることができる。
・債権の目的が数個の給付の中から選択によって定まるときは、その選択権は、債務者に属する。
・債務の履行について確定期限があるときは、債務者はその期限の到来した時から遅滞の責任を負う。
・債務の履行について不確定期限があるときは、債務者は、その期限の到来した後に履行の請求を受けた時又はその期限の到来したことを知った時のいずれか早い時から遅滞の責任を負う。
・債務の履行について期限を定めなかったときは、債務者は、履行の請求を受けた時から遅滞の責任を負う。
・債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。
・債務の不履行に対する損害賠償の請求は、これによって通常生ずべき損害の賠償をさせることを目的とする。
・特別の事情によって生じた損害であっても、当事者がその事情を予見すべきであったときは、債権者は、その賠償を請求することができる。
・金銭の給付を目的とする債務の不履行については、その損害賠償の額は、債務者が遅滞の責任を負った最初の時点における法定利率によって定める。ただし、約定利率が法定利率を超えるときは、約定利率による。
・金銭の給付を目的とする債務の不履行による損害賠償については、債権者は、損害の証明をすることを要しない。
・金銭の給付を目的とする債務の不履行による損害賠償については、債務者は、不可抗力をもって抗弁することができない。
・当事者は、債務の不履行について損害賠償の予定をすることができる。
・債権者は、自己の債権を保全するため、債務者に属する権利を行使することができる。ただし、債務者の一身に専属する権利は、この限りでない(債権者代位権)。
・債権者は、債務者が債権者を害することを知ってした法律行為の取消を裁判所に請求することができる(詐害行為取消権)。ただし、その行為によって利益を受けた者がその行為の時において債権者を害することを知らなかったときは、この限りでない。
6.保証
・保証契約は、書面でしなければ、その効力を生じない。電磁的記録でなされたときは、書面でなされたものとみなす。
・保証債務は、主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たるすべてのものを包含する。
・保証人は、その保証債務についてのみ、違約金又は損害賠償の額を約定することができる。
・保証人の負担が債務の目的又は態様において主たる債務より重いときは、これを主たる債務の限度に減縮する。
・保証人の要件
① 行為能力者であること。
② 弁済をする資力を有すること。
・保証人の要件に欠けることとなった場合、債権者は代わりの者を請求することができるが、保証人を債権者が指名した場合には変更の請求はできない。
・債権者が保証人に債務の履行を請求したときは、保証人は、まず主たる債務者に催告をすべき旨を請求することができる。ただし、主たる債務者が破産手続開始の決定を受けたとき、又はその行方が知れないときは、この限りでない(催告の抗弁)。
・債権者がい主たる債務者に催告をした後であっても、保証人が主たる債務者に弁済をする資力があり、かつ、執行が容易であることを証明したときは、債権者は、まず主たる債務者の財産について執行をしなければならない(検索の抗弁)。
・連帯保証の場合には、催告の抗弁、検索の抗弁ともに有しない。
・主たる債務者に対する履行の請求その他の事由による時効の中断は、保証人に対しても、その効力を生ずる。
・保証人は、主たる債務者が主張することができる抗弁をもって債権者に対抗することができる。
・主たる債務者が債権者に対して相殺権、取消権又は解除権を有するときは、これらの権利の行使によって主たる債務者がその債務を免れるべき限度において、保証人は、債権者に対して債務の履行を拒むことができる。
【事業に係る債務についての保証契約の特則】
事業のために負担した貸金等債務を主たる債務とする保証契約又は主たる債務の範囲に事業のために負担する貸金等債務が含まれる根保証契約は、その契約の締結に先立ち、その締結の日前1か月以内に作成された公正証書で保証人になろうとする者が保証債務を履行する意思を表示していなければ、その効力を生じない。
・主たる債務者は、事業のために負担する債務を主たる債務とする保証又は主たる債務の範囲に事業のために負担する債務が含まれる根保証の委託をするときは、委託を受ける者に対し、次に掲げる事項に関する情報を提供しなければならない。
① 財産及び収支の状況
② 主たる債務以外に負担している債務の有無並びにその額及び履行状況
③ 主たる債務の担保として他に提供し、又は提供しようとするものがあるときは、その旨及びその内容
【公正証書の作成と保証の効力に関する規定の適用除外】
公正証書の作成と保証の効力に関する規定は、保証人になろうとする者が次に掲げる者である保証契約については、適用しない。
① 主たる債務者が法人である場合のその理事、取締役、執行役又はこれらに準ずる者
② 主たる債務者が法人である場合の次に掲げる者
・ 主たる債務者の総株主の議決権の過半数を有する者
・ 主たる債務者の総株主の議決権の過半数を他の株式会社が有する場合における当該他の株式会社の総株主の議決権の過半数を有する者
・ 主たる債務者の総株主の議決権の過半数を他の株式会社及び当該他の株式会社の総株主の議決権の過半数を有する者が有する場合における当該他の株式会社の総株主の議決権の過半数を有する者
③ 主たる債務者と共同して事業を行う者又は主たる債務者が行う事業に現に従事している主たる債務者の配偶者
7.個人根保証契約
一定の範囲に属する不特定の債務を主たる債務とする保証契約(根保証契約)であって保証人が法人でないもの(個人根保証契約)の保証人は、主たる債務の元本、主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たる全てのもの及びその保証債務について約定された違約金又は損害賠償の額について、その全部に係る極度額を限度として、その履行をする責任を負う。
・個人根保証契約は、極度額を定めなければ、その効力を生じない。
8.多数当事者の債権及び債務
・数人の債権者又は債務者がある場合、別段の意思表示がない場合には、各債権者及び債務者は、それぞれ等しい割合で権利を有し、義務を負う。
・不可分債権者の一人と債務者との間に更改又は免除があった場合においても、他の不可分債権者は、債務の全部の履行を請求することができる。この場合においては、その一人の不可分債権者がその権利を失わなければ分与されるべき利益を債務者に償還しなければならない。
・不可分債権が可分債権となったときは、各債権者は自己が権利を有する部分についてのみ履行を請求することができ、不可分債務が可分債務となったときは、各債務者はその負担部分についてのみ履行の責任を負う。
【連帯債権者による履行の請求等】
・債権の目的がその性質上可分である場合において、法令の規定又は当事者の意思表示によって数人が連帯して債権を有するときは、各債権者は、全ての債権者のために全部又は一部の履行を請求することができ、債務者は、全ての債権者のために各債権者に対して履行をすることができる。
・連帯債権者の一人と債務者との間に更改又は免除があったときは、その連帯債権者がその権利を失わなければ分与されるべき利益に係る部分については、他の連帯債権者は、履行を請求することができない。
・債務者が連帯債権者の一人に対して債権を有する場合において、その債務者が相殺を援用したときは、その相殺は、他の連帯債権者に対しても、その効力を生ずる。
・連帯債権者の一人と債務者との間に混同があったときは、債務者は、弁済をしたものとみなす。