
2016(H28).1 No.3
途中ふと彼女がボートを止めたと思うと、何と海に身を乗り出して氷をボートに持ち上げようとしました。とても大きな氷で自分が海に落ちそうになっているではありませんか。私は思わず彼女の足を押さえました。苦労して持ち上げた氷は透きとおりきれいでした。氷山がとけて小さくなったものだそうで、1万年前の氷と聞いてびっくり。彼女の勇気にもびっくりでした。

美しい氷 
ボートの探検は1時間半程で終了し、びしょびしょになって戻りましたが本当に寒かった。これが南極の夏なのだ。すぐに濡れた衣服を室内に干して明日に備えました。夕食は船内のレストランでディナーとなりますが、船は小島の間の内海を進んでいるため揺れは全くないので快適に食べられました。寒いせいだと思いますが食欲があります。南極では寒さに耐えるために高いカロリーが必要となるそうです。よく食べたその後でバーにて乾杯となりました。

そのグラスの中には1万年前の氷が浮かんでいるのでした。1万年前の氷で乾杯。なんて贅沢なんだろう。最高!
南極の島に初上陸!
翌日ディティユ島に初上陸をしました。ボートで近づいても桟橋はありません。岩にボートを近づけると一人一人飛び移ります。もちろんスタッフの方が手を添えてくれるので心配はありませんが、それでも足元は不安定です。上陸をしてみると雪がたくさん積もっており少し湿って柔らかいせいか歩きにくかったです。
そこには旧英国南極基地がありました。現在は使われていませんがそのまま放置されていて、スタッフの皆さんは博物館と言っていました。室内には使っていた当時の荷物もそのまま残っており、机にブロンドの素敵なお姉さんが載った新聞紙が目立っていました。当時の隊員はこれを眺めて長い南極の冬を乗り越えたんだろうなと考えてしまいました。小高い丘からは周囲が見渡せ南極の風景が見られて感動しました。



動物たちとの出会い!
いよいよ第1回目のボートクルーズです。下着も冬季用のもの、ズボンと上着は厚手のものを着て、その上に防寒のズボンに厚手の極地用キルティング、毛糸の帽子に手袋、マフラー、海に落ちた場合自動でふくらむライフジャケットを着用、上陸時に濡れないように長めの長靴。カメラなど必要品を持つとモコモコになってしまい、室内で着てしまうと汗が出てきました。
乗船するのはゾディアックボートという頑丈なゴムでできたボートです。本船から乗り降りするときには必ず靴の洗浄消毒を行いました。南極の地に病原菌や種子など持ち込まないためや、その逆に船に南極のものを持ち込まないためです。アマゾンなどでもそうなのですが、未開の地には想定できない微生物がいたり、現地で生活する人や動物たちが私達が生活する所の病原菌に対応できない場合、全滅する恐れもあるからです。現に南極出発の地ウシュアイアではヨーロッパからもたらされた病原菌で先住民が全滅するという悲劇がありました。
ボートには10人一組ぐらいで乗船します。ドライバーは動物学者、地質学者、カメラマンなど各種の分野の専門家達も多くボートでの案内時にそれぞれの分野の知識を披露し説明してくれます。この日は何と日本人の若い女性ドライバーでした。彼女はとてもたくましく、雪が顔に当たっているのに濡れたまま前方をしっかり見据えて運転していて本当に感心しました。
ボートにはシートベルトは無く両脇に腰をかけるのみです。船べりにはロープが1本だけありました。波でバウンドすると腰が浮いてしまうしスピードを上げると波しぶきが身体にかかってきます。雪が降っていると顔は前を向いていられず、カメラが濡れないように守ることで必死となりました。当然スピードが出ると寒くもなり、そんな思いをしながらボートは大きな海氷に近づいていきます。そこにはあのペンギンがいました。

アデリーペンギン 
アデリ-ペンギンだということを後で知りましたが、目玉くっきりの可愛いペンギンが海氷の上をよちよちと歩いて行く姿はとっても愛嬌があります。こんなに近くで見られるのは本当に幸せです。ボートは海氷の間を氷をかき分けて移動していき、次々に動物に近づきます。カニクイアザラシだ。

カニクイアザラシ 
この後、白くきれいなユキドリ、アシナガウミツバメ、ナンキョクアジサシなどこんなにたくさんの生き物がいるのかと感動を覚えると同時にこんなに寒い雪と氷の世界に生きる動物たちの強さを実感するのでした。
