職人かたぎ譚 
中野孝次著「光るカンナ屑」(小学館)より

連載 その6.

前にも言ったかと思うが、日本の建築は軸組構造っていってね、一本の釘も金物も使わず材と材とを組み合わせて建物の骨組みを作り上げるところに工夫がある。いいかい、あんた、ここに桁材が二本あって、それを横につなげて一本にするにはどうしたらいいか。その継ぎ手の一つにも日本の棟梁は、金輪とか追掛大栓とか台持とか、二本を一本の材として働かせるためのいろんな継ぎ方を工夫してきた。土台なら単に材と材を継げばいいから、鎌とか蟻とかいう簡単な継ぎ方をする。まあそのほかそれぞれにいろんな遣り方があるが、そんなことをいちいちあんた方に言ったってしょうあるめえ。
 とにかくその複雑で理に叶った材の組み合わせ方、つまり継ぎ手、組み手の工夫こそ、日本の大工技術が世界に誇るものなんだ。金物なぞぜんぜん使わねえで、材と材とを、ただその組み合わせ方一つで頑丈な一つの構造に仕上げる。いったんそうやって組んでしまえば、百年だって千年だって保つのが日本の建築よ。そういう組み手の仕方を、代々の棟梁は受けついで来てるんだ。
 棟梁ってえのは、そういう親方から弟子へ代々伝わってきた継ぎ手、組み手の工夫を全部身につけて、材にスミを打てる人のことを言うんだ。墨壷ってえのを知ってるだろう、あの墨壷と竹で作ったスミサシというおそろしく簡単な道具一つで、サシガネを使ってどんな複雑な継ぎ手でも組み手でもスミカケのできる技を持ってる人が棟梁なんだ。
 

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