ボールはふわっと上がり、ゴールの下の部分にゴンと力なく当たりましたが、初めて彼の投げたボールがゴールまで届いたのです。おお!私は思わず彼に向かってガッツポーズをしてしまいました。転がってきたボールを拾い、彼に渡しながら今度は入るぞ、頑張れと声をかけました。彼ははにかみながらうなずいてシュートの列に並ぶのでした。その日彼がボールをバスケットゴールに入れることはありませんでした。でも私は教員になりたいなと強く思いました。

  教員となって 

 昭和53年(1978)4月初めて中学校へ出勤すると校長先生から1年生の担任をやってもらいますと言われ、びっくりしました。それからはパニックの連続で先輩の先生を手本にして学級や授業、部活動に取り組んでいきました。それからあっという間に月日が経った気がします。

 ある日教室に入って行くと机が全て窓側を向き、生徒全員が窓に向かって座っていました。私は吹き出してしまい大笑いでした。机を元に戻してから私は言いました。「これを考えたのはUだな。それを実行するようにしたのはSだろう」「えーどうして分かったんですか?」正解でした。私はにやりとして「普段の姿を見てると分かるようになるんだ教員は」とちょっと自慢しました。

  

 教員となる前、小学校の恩師に会いに行きました。その時「人は人に育てられて人になる」という言葉を頂きました。失敗も成功も楽しさも悲しさも子供達と一緒に経験することが、子供や自分も育てることになるんだと私は思います。あの大学生の時のバスケットボール指導が私の最初でした。






         
                        
   H29(2017).8

子供たちとの出会い

 先日久しぶりに夢を見ました。退職してから初めての学校の夢です。朝方見た夢だからでしょうか内容が鮮明なのです。それは私が学級担任として朝の教室に入ったときの光景でした。入ってみると教室には誰も居ません。机や椅子だけがたくさんあり、机の天板の茶色がやけに目に写りました。
 どうしてみんないないんだろう。不安になった私はみんなを探します。廊下を見ると誰も居ません。ふと外だとそんな気がして窓に寄ります。窓から見えたのはクラスの子供達が元気よく遊んでいる姿でした。私は苦笑しあいつら時間なのにとつぶやきます。そして大きな声で「おーい学活だぞー!」と窓から子供達を呼んだのです。夢はそこで終わりました。目が覚めてもなんだか胸が温かくなる思いが残りました。

 私は大学で体育学部に進学しました。4年生の時です。ゼミの教授に小学校の子供達の水泳を指導するので手伝ってくれないかと声をかけられ行くことにしました。教育実習は高校で行なったため小学生を教えるのは初めてです。当日学校のプールまで行くとあいにくの雨となりました。気温も低く教授は種目の変更を決定しました。私達は体育館に移動しバスケットボールを指導することになったのです。私のグループには1,2年生でしょうか、小さな子供がいました。バスケットボールが大きすぎます。ドリブルは何とかできてもシュートは無理です。

  

 そのシュートの練習になりました。他の子供達は時々ゴールにボールが入り喜んでいます。彼もボールを投げますが全く届きません。なんだか悲しそうな顔に見えます。指導をしながらどうしようどうしようと私はずっと考えていました。ふと投げ方を変えてみたらと思いつくと、彼を脇に呼んで股の間にボールを振り下ろしてその反動で上に投げることをやらせてみました。
 何回か練習をした後、彼がゴール前に立ちます。彼はゴールを見た後、私を見ます。私は一瞬目をそらしたくなりました。私はあまり自信が無いのに彼は私を頼っていることが感じられたからです。私は思わず大丈夫と声をかけました。彼は全力でボールを下に振り下ろしその反動で上に投げ上げました。