運ばれてきたブルーマウンテンのカップは明らかに私達のカップとは違う豪華な感じがしました。そしてミルクピッチャーともうひとつ同じ大きさのガラスの器がついてきたのです。一瞬彼は戸惑ったのですが、さすがブルーマウンテンはいろいろ入れるんだなとつぶやくとガラスの器に入っている液体を珈琲の中に入れました。そして一口飲んだ彼の口から出た言葉は「すごい爽やかだ」でした。私達は本当にうらやましくなりました。でも味見はせず自分の時を待ちました。
次の挑戦者は私でした。注文をしたブルーマウンテンが運ばれてくると私は躊躇(ちゅうちょ)せずガラスの液体を珈琲に入れました。一口飲むと少し薄いかなとも思いましたが、良い香りが広がり「本当に爽やかな珈琲だなあブルーマウンテンは」とほめました。
そして最後の一人がブルーマウンテンを飲む時が来ました。ブルーマウンテンが運ばれてきた時、いつもと違ってウエイターの人が丸い紙を置いていったのです。その紙にはブルーマウンテンのおいしい飲み方と書いてあり、説明がありました。
「ガラスの器には炭酸水が入っています。一口飲んだ後、炭酸水で口をすすぐようにして飲むと何度もブルーマウンテンの美味しさが味わえます」と書かれていました。
その日、珈琲同好会の専門店行きは終了しました。
しばらくしてパイオニアの彼がコーヒーサイフォンを買うことを提案しました。今度は自分で淹れてみようというのです。すぐに賛成した私達はお正月のお年玉でサイフォンのセットを購入しました。私はすぐに粉も買ってきて準備をしました。
一枚の布をろか器に着けるともう一枚余りました。これも入れるのだろうと下に敷き珈琲の粉を入れます。アルコールランプの火がお湯を上のロートに押し上げた時かき回すのですが、どうも布が邪魔です。私はこれは予備の布なんだとその時気づきました。初めて自分で淹れた珈琲は少し苦かったです。
学校でその話をすると彼は親戚の叔父さんが来たので初めてそこで淹れたそうです。上のロートにろか器のフックを掛けることに気づかず、珈琲の粉が下へ落ちてしまった珈琲を叔父さんに飲ませたところ「ずいぶん粉っぽい珈琲だなあ」と言われたそうです。彼は「これが本物のサイホン珈琲なんだ」と説明したそうです。
少し苦い思い出ですが私はこのように珈琲と出会い、今もなお毎日その味と香りを楽しんでいます。
珈琲との出会い その1
S49(1974)
珈琲同好会
私は珈琲が好きで毎日自分で焙煎(ばいせん)した珈琲を淹(い)れて飲みます。種類も多く淹れ方も様々で街の中においしそうな珈琲の香りが流れてくると思わず喫茶店に入ってしまうのです。最近は健康にも良いと紹介されるようになり、どこに行っても必ず珈琲が用意されている時代となりました。
私が珈琲を好きになったきっかけは高校生の時でした。学校の近くに珈琲専門店があり、いつもいい香りをさせていたのです。いつか入ってみようと思っていたのですが、高校生なのでなかなか入る勇気やきっかけが見つかりませんでした。
ある日話をしていた同級生2人が同じ事を考えていることが分かり、3人で珈琲同好会を作りいろいろな珈琲を飲んでみようと急にまとまったのです。昭和40年代後半のことですから小遣いも多くないし、専門店の珈琲は一杯300円もするのです。月に1回行くのがせいぜいでした。
珈琲同好会の3人は店に入ると必ず別の種類の珈琲を注文します。ときに2人の珈琲の味見などをしながらこれは苦い、酸っぱい、香りがいいなどとそれぞれの感想を言い合って楽しんでいました。
その店のメニューの最高峰に999円というとてつもなく高い値段の珈琲がありました。ブルーマウンテンです。どんな珈琲なんだろうと興味津々でしたがいつか必ず飲んでみようというのが3人の目標でした。多くの種類の珈琲を飲み終わる頃、その時がついに来たのです。
一人が俺は次にブルーマウンテンを飲むと宣言した時、オー!と二人は感心しました。彼はパイオニアとして挑戦するのですからうらやましくもありました。その日胸をときめかせて珈琲を注文し、ブルーマウンテンが来るのを待ちました。
