私の頭にパッとあるイタズラがひらめきました。私はカメラを意識しないようにしてズボンの財布をさぐりながら募金を呼びかける人達に近づいていったのです。財布から百円を取り出し、笑顔の可愛い女の子のところへ行きました。ぽとんと箱に入れると女の子は「ありがとうございました」と元気に御礼を言いました。私は少し後ろめたい気持ちになりましたが、笑顔でうなずいてカメラの方へ向かって歩き出したのです。気がつかない振りをして。私はカメラの前を通るとき初めて気がついてビックリした顔をしてその場を離れました。

その後、映画を見て帰る頃にはすっかり忘れていたのですが、家に着くやいなや母に「お前テレビに出たんだって?」と声をかけられました。その後友人や親戚の方々から続々連絡をいただき「やったー」とひとり大笑いをしたものでした。
ところがその後少し変なのです。12月になり、歳末助け合い運動の声を聞くと募金箱にお金を入れなければいけないという気持ちになってしまうのです。
私は全国に知られた人なのだから…。
そして私は今年も財布をさぐるのです。

その後、毎回の寄付が大変なので引き落としにしていたら、思いがけず平成27年日本赤十字社より銀色有功賞を、ユニセフからはマンスリーサポートプログラムの感謝状をいただきました。最近は国境なき医師団も同様にしています。地震や災害、紛争の被害に援助をしてくれている団体に少しでも力になれば、そして大変な思いをしている皆さんに少しでも寄り添えられればいいなと思っています。

募金はこうして始まった
今年もとうとうカレンダーの最後のページになりました。この季節になると私には必ず浮かび上がる思い出があります。
そうあの時私は夕方のテレビニュース番組にアップで登場したのです。そのことがきっかけで今でも・・・。
あれは私が大学3年生の冬休みの頃でした。その日私は何も用が無く、友人も帰省してしまい退屈な一日になる予定でした。「そうだ映画でも見に行こう」と急に決めて新宿に向かいました。一人で見るのも寂しいのですが、友人はみんな地方出身でしたので仕方がありませんでした。新宿駅の東口階段を上がるとロータリーが見えました。12月ということで歳末助け合いの募金を呼びかける人達が募金箱を胸に持ち並んでいるのが見えました。

その時私の左側遠く離れたところにテレビの中継車が見え、屋根にテレビカメラが設置されているのに気がついたのです。そのカメラは募金を呼びかける人達を狙っていました。

S63(1988).12