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 盤上遊戯囲碁散歩  ―その2          


囲碁散歩 (5) ―         

・碁石(その3) 碁石の合理的形状

 1990年ごろ、囲碁棋士同行のツアーで中国北京の「中国棋院」を訪れました。
記念に碁石を購入。白も黒も石製です。容器は柳の枝(?)で編んだもの。石の直径サイズは日本のものとほとんど同じかわずかに大きいのですが、ふくらみは上部のみです。下部は平らなので盤に置くと安定します。日本のは上下ともふくらみがあり盤に置くとグラグラ揺れます。しかしこの形がゲームを進めるには好適なのです。

 囲碁は相手の石を囲み取り除き盤上に自分の石をより多く残すことを争うゲームですから、石を盤から取り上げる動作がしばしば生じます。また日本のルールでは取り上げた石(ハマといいます)は碁笥(石の容器)の蓋に保存し対局停止後に相手の地(別途説明)を埋めることに使います。そして対局終了後、盤上にあった全ての石を、黒と白に分けながらお互いに専用の碁笥に戻します。これら一連の石の操作をスムーズに行える合理的な形状なのです。したがって、中国でも最近、日本が使ってきた石の形状を一般に採用していると思われます。
(ただし、中国の石を逆に置き、仮置きとすると、局後の検討や詰め問題の試し置きに利用できる便利さもあります)

・碁石(その4) 捕獲された石(「ハマ」)の扱い方

 中国のルールには「ハマ」という概念がありません。ちょうど、マージャンでいう捨て牌が日本ではある種の役割を果たすため丁寧にならべられるのに対し、中国式マージャンでは、捨て牌はゲームの進行に不要としてみな混ぜて取り除いてしまうのと同様な扱いです。

 中国式の囲碁対局では、盤上から取り上げられた石は白も黒も混じりあって盤の脇に不要の石として卓上に捨てられたり、または碁笥に戻して再使用されることになります。日本のルールでは「ハマ」の多寡は勝敗にかかわりますので大切に残しておきます。

 "一目の差で座布団引っぺがし”(たしかこのような川柳がありました)  

 意味するところは僅差の結果なので保存していた「ハマ」がまだどこかに残っていないかと探している仕草です。

 相手のコマ(石:棋子)を取り上げ、それが勝敗に関わる機能を持つということは、日本将棋の捕獲した(capture)コマは持ち駒となり、味方の戦力となることに似ています。チェスや象棋(中国将棋)では、捕られたコマは盤上から取り除かれ、それ以後ゲームに参加することはありません。死んだり喰われたりしたものは復活しないのです。

 日本の囲碁・将棋ゲームでは、一旦盤上から取り除かれたコマであってもまだゲームにおいて存在価値を有しています。元寇であらわとなったように日本の古来からの戦のやり方は中国や西欧の戦法と著しく異なっていました。そのような日本固有の戦法に影響を受け、日本の囲碁・将棋ゲームは沖縄を除き国内で独自に変容し、ルールの相違に至ったのではないかと考えております。

<参考文献>

駒はなぜ40枚か」増川宏一 集英社新書 2000

囲碁散歩 (6) ―       

 ・碁石(その5) 石に関するルール

 日本囲碁規約に則って進めましょう。ただし、この規約は前にも述べたように日本のプロ棋士のためのルールですので、アマチュアには不適当な個所もあることを念頭においてください。またこの規約はルールと用語の定義が混在しています。今後改訂し区分すべきと思います。

 まずは着手と着点の説明からです。

 碁石(以下石といいます)は黒石と白石とを交互に1手づつ着手することができます。このできるというところに注意してください。着手をパスすることも可能なのです。他の盤上遊戯では、パスのできないルールがあり、パスの有無は戦法に大きく影響する場合があるからです。

 たとえば、日本の将棋などはパスのできないルールを活用して自分に優勢な局面に誘導する作戦があります。囲碁の上級者でもパスのできることをご存知ない方がおられます。ただし、相手の了解無しに2手連続着手するとルール違反で負けとなります(プロ棋士同士の対局での実例があります)。
 
 着手とは、盤上の交点に石を打つあるいは置くことです。着手した点を「着点」といい、着手されていない点を「空点」といいます(規約第3条)。つまり盤上の交点には黒石があるか白石があるかまたは空点か3種いずれかの状態であることになります。

 日本では「碁打ち、将棋指し」といいますが、中国では区別なくいづれも着手です。日本語で「好手」は中国語では「好着」です。また英語では着手を move といい、これは明らかにチェスのコマ(chessmenという)を盤上で移動させることからきています。石(stone)をmove といわれてもなんとなくしっくりこない感じがいたします。(碁笥から石を盤上の交点に運ぶとみなせばよいかもしれませんが。)

 規約の第4条は石の存在を定義しています。すなわち、「着手の完了後、一方の石は、その路上に隣接している空点を有する限り、盤上のその着点に存在するものとし、そのような空点のない石は、盤上に存在することができない。」とあります。なかなか難しい表現ですね。しかし、この規約が囲碁というゲームのルールの根幹なのです。つまり、「石を囲めば取れる」ということさえ教えれば、初心者でも即座にゲームを開始することができるからです。

 ぼくは、区立児童館へ将棋や囲碁の普及にいくことがありますが、子供たちに「相手の石を囲めば取れるゲーム(ポンヌキゲームという)」を教えると1、2分で理解したちまち友達同士で遊びだします。ゲームの進行に不具合なところができても、適当にルールを工夫して解決してしまいます。ただし大人に説明し理解してもらい、実際に遊んでもらうまでには時間と工夫を要します。
 次は「ポンヌキゲーム」についてふれてみます。

囲碁散歩 (7) ―         

・ご質問や感想に応えて

{質問}
 囲碁の件、相撲の序列は横綱・大関・とはっきりしていますが碁は本因坊、棋聖、名人などあるが、序列がよくわかりません。最高の段位は10段ですか。相撲のように降格もあるのですか。碁は男性社会と思っていましたが、最近は女流棋士もふえているのですね。

{回答}
資金を提供している各スポンサーがそれぞれの棋戦開催権を持っているので、序列は明確ではありません。棋聖(読売)、名人(朝日)、本因坊(毎日)の賞金額順位があります。日本棋院や関西棋院は経営難であり、独自の棋戦(大手合=段位取得の場)に十分な運営資金(賞金や宣伝)を投じることができません。

最高の段位は十段ではなく、九段です。十段は十段戦のタイトル名称です。大手合で得た段位は降格がありませんので、九段が多数となり問題になっています。それと、日本の段位と世界各国の段位と昇級基準が異なりますので、実力を反映するとは限りません。一般には、チェスのように世界ランキングの採用も検討されるべきでしょう。柔道も最強実力者は四~五段といわれています。

以前われわれが学生囲碁リーグ戦に出場していたころ、女子選手は皆無といっていいほどでしたが、最近の学生リーグ戦や個人戦では女子選手権戦もあり、会場は華やかです。さらに一般学生チームの主将が女子学生の場合もあります。男性に伍してタイトルを争う女流棋士はまだ現れていませんが、レッスンでの指導などには女流棋士が人気です。囲碁の普及のため、女流棋士採用に特別枠があります。

 ジャンプコミックス「ヒカルの碁(1)棋聖降臨」を読み直してみました。

・「ヒカルの碁」  原作/ほったゆみ、漫画/小畑健、監修/梅澤由香里二段(当時)

  編集/ホーム社、発行/集英社 1999

 美人の梅澤由香里四段のファンは多い。TV(水曜日)でワンポイントレッスン開始。
 主人公ヒカルのTシャツの胸のマークが丸に数字の5であることに気づく。(多分にGOのもじりでしょう)

 本書に日本棋院普及部による囲碁の説明個所があり、「囲碁は多くの陣地(=地)を取るかで勝負がきまります。地の単位を目(もく)と呼び交点の数で計算する」としています。

 「目」は「め」とも読みます。石の死活の際に「この石(stones)には目(め)があるから活き」といいます。更に「この石は二眼(にがん)あるから活き」ともいいます。「二目(もく)あるから活き」とはいいません。

 「目」という漢字の本来の意味は人間の目(なかの二本の線は眸の意)です。目の日本語用法では「(1)小さい点や穴、また、すきま(=網の目)(2)間隔をおいて多数並んでいる、筋や突起。(3)空間的・時間的な区切り(=かわり目)(4)程度をしめす(=控え目)」など多義に及んでいます。「駄目(だめ)」の目の意味は一体どれにあたるのでしょうか、また、「作家として一目(もく)も二目もおく太宰治」とはどのような意味でしょうか。いずれも囲碁の用語に由来する言葉です。

 「目」の現代中国語の発音は"mu"、日本語では"moku"または"me"。いづれも"m"が共通の音であることから、古代の日本の発音は古代中国の発音と同じであった可能性があります。類似の文字に、「馬(う+ま)、や梅(う+め)」があります。

<参考文献>「全訳 漢辞海」監修戸川芳郎 三省堂 2000

囲碁散歩 (8) ―       

・「ポンヌキゲーム」(1)

 囲碁規約第4条に「空点のない石は、盤上に存在することができない」とあり、囲碁を知っている人は自明としてろくに説明せず初心者にルールとして押し付けてしまう傾向があります。しかしよくよく考えると難しい概念を含んでいます。

 ここでいう石とはなんでしょうか? 正確には「一方の石」のことです。この場合の石は1個ではなく複数です。stones です。空点がなくても石は存在することがあります。すなわち、黒石が多数隙間なく集まっていると、中心部には空点のない黒石(stone 単数)が存在します。空点がないからといってその石を取り除くことはありません。タテまたはヨコに連続している(連なっている)複数の同色の石は「一方の石」といって大きな一つの石であるとして暗黙の了解事項となっています。初めて囲碁ルールを教えられた人には、やや解りにくいことかもしれません。同じ石という用語も1個の石のことや細石の巌のように連なった複数の石を意味することがあります。日本語は単数、複数の区分が明確でないためあえて複数を明示させてみました。

 「ポンヌキ」とは通常「四つ目殺し」といって、1個の石(stone)を他方の色の石(stones)で上下左右密着させて取り囲み、その1個の石を盤上から取り上げることを意味しています。しかし、「ポンヌキゲーム」での「ポンヌキ」は1個の石とかぎらず、連続する石すなわち、一方の石の空点をなくし、盤上に存在できない状態を意味しています。そして沢山の石(stones)を獲得したほうが勝ちとするルールで遊ぶことができます。

 上下左右に囲むとはなんでしょうか? タテとヨコの隣接している四方の交点に石を置き空点をなくすことです。さらに、盤の縁や隅にある石を囲むにはどうしたらよいか? このあたりの説明は文章ではなく、実際に盤上に石を置いてみると容易に理解できます。

 ではなぜ、図示せずまわりくどく述べているか疑問に思われる方もおられるでしょう。その理由は、電子メールでは図表が表現しにくいことが第1の理由ですが、第2の理由があります。それは、「空点のない石は、盤上に存在することができない」というルールを視覚という認識手段をもたないコンピュータにプログラムすることは容易ではないからです。すなわち、児童に教えるのは簡単でも、タテヨコに連なっている一方の石(という)の空点の有無をコンピュータに判定させるのは複雑なプログラム処理をさせねばならないということを知っていただきたかったからです。
(コンピュータ囲碁対局プログラムは日本よりむしろ海外での研究が進んでいます)

 「とはどのように定義されるのですか? タテヨコに連続していない一方の石が存在しますよ」と下記の例を示してきた友人がいました。

 ○○○○○++     
 ○●●●○++ たしかに、黒石は連続していませんが、この形
 ○● ●○○+ は連とみなされています。黒石の中の二つの
 ○○● ●○+ 目(め=空点)には白石を二つ同時に打つことができま
 +○●●●○+ せんので、これら10個の黒石は活き石で連続しています。
 +○○○○○+ 
 +++++++ 

囲碁散歩 (9) ―        

・「ポンヌキゲーム」(2)  相手の石を取り囲むと得点

 1028日(土)、マレーシアの中国系女子学生と連珠ゲームをしました。よく考えて着手してきますので強くなりそうです。すでに五目ならべゲーム(中国語では五子棋)は知っていたとのこと。

 他に知っているゲームはと尋ねると、子供の頃遊んだ囲碁に類似したゲームを教えてくれました。それは、方眼紙を使い、石の替わりに×のマークを交点へ交互に書き込んでいきます。相手のマークを自分のマークで取り囲むと、それら囲んだマークを連結させた線を書き入れ獲得数(得点)を記録していきます。多く得点した方が勝ちとなります。

 方眼紙のサイズは任意。このゲームは「ポンヌキゲーム」とほとんど同じですが、ルールが明確なことで児童用ゲームとしてはまずまずの完成度です。紙と鉛筆でできるのは手軽です。

 こんなゲームがあると日本棋院の平本六段に見てもらったところ、安田九段メソッドの「ポンヌキゲーム」と同じで、先手は勝とうとしなければ必ず引き分けとなるゲームですといわれました。平本六段はその著「囲碁の知・入門編」で囲碁のルールに関し、マスメに石をおく囲碁ゲームが古代に存在した可能性などにふれています。

 「ポンヌキゲーム」は9路盤を使い囲碁入門ゲームとして保育園児・小学生を対象にして各地で行われています。推進団体は「NPOふれあい囲碁ネット」。

 200111月初旬静岡県での『第2回ふじカップふれあい囲碁ゲーム大会』において、天皇・皇后も参加され「ポンヌキゲーム」が行われました。囲碁をまったくご存知ない大人達も喜んで参加できたゲーム大会だったそうです。

 ぼくは、「NPOふれあい囲碁ネット」のインストラクタ研修会に参加したこともあり、現在中野区のある児童館に月1回ゲーム指導ボランティアとして「ポンヌキゲーム」などを教えにいっています。ただし、多くの子供達はじっと集中してゲームを続けることが苦手で移り気です。

 また「ポンヌキゲーム」は覚えた後、更に対局を重ねゲームとしての面白さを深めていくことには難点があります。安田九段以外にも初心者のための囲碁入門ゲームを考案している専門棋士がいます。
いずれ囲碁をはじめとする奥の深い対局ゲームの面白さを覚え、個性ある能力を発揮する子が育ってくることを期待しています。
 コンピュータ相手の対局ゲームでは目新しいときや練習のときは面白いのですが、奥深さの点で物足らなくなり、飽きてきます。そのため売上をあげるため次々とバージョンアップ版の供給が繰り返される傾向がみられます。


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囲碁散歩 (10) ― 

 ・「ポンヌキゲーム」(3)  ダメ(日本語)と気(中国語)

 「ポンヌキゲーム」は一方の石のダメをつめる(詰める)と盤上から取り除くことができます。ダメのことを中国語では「気」といいます。ダメは駄目でありあまり語感がよろしくないことから日本でも「呼吸点」と説明したりしています。気は呼吸や活力の意味がありより適切な用語のような気がいたします。ただし、「ダメのつまりは身のつまり」と格言にもなっていますので、いまさら変更するわけにもいきません。要は、ダメにも「呼吸」としての重要さと終局にあたって勝負に関係のないダメを埋める(詰める)手続きでのダメと二つの意味合いがあることに気をつけたいと思ったからです。

 世界最強の囲碁対局プログラムを開発した 陳志行教授の著作から図を引用し、ダメを説明してみます。

 +++++    +++++   +++++  +++++
 ++++    ++++   ++++  +++
 ++●○+    ++   +●●○+  ++++
 ++++    ++++   ++++  ++++
 +++++    +++++   +++++  +++++
  1図        2図          3図     4図

 1図は黒石のダメが1箇所あり、あと白石の1着で囲まれてしまいます。これを「アタリ」の状態といいます。中国語では「チー:食べられる」状態といいなす。
 2図が全てのダメを詰められ取られた結果の図です。とられないためには3図のように2個の石をつなげ(連)をつくりダメの数を3個に増やして防ぎます。これを「アタリをかけられ逃げた」といいます。
 連のことを、陳志行氏によれば中国語で「串」と称しています。面白い命名です。

 4図の連(串)のダメの数はいくつでしょうか? これらは、2つ石の連が1個と1つの石の連が1個です。串が2本と考えてもよろしいでしょうね。2つ石の連のダメは6個、1つの石の連のダメは4個。では、これら2つの連のダメをすべてうめるには何個の白石が必要でしょうか? 答えは8個。重複したダメが2個あるからです。

 上級者になると、複雑な連のダメの数でも素早く計算します。(数の絶対値を数えるのでなく、相対的に彼我のダメの多寡を判定するのです)

 <参考文献>
電脳囲棋 小洞天 陳志行 中山大学出版社 2000


囲碁散歩 (11) ―         

・「ポンヌキゲーム」(4)  ダメの個所と石のカタチ

 高段者の著作には「石のカタチ(形)やスジ(筋)」という用語がよく使われています。美しいカタチとか見事なスジなどと感覚的な表現があり、囲碁の美学などともいわれています。長年の修練により、石のカタチの良し悪しが一見して判断できるのでしょう。そうした感覚は、他の芸術芸能さらにはスポーツ選手の動作にも当てはまることと思います。

 単純なポンヌキゲームにおいてもしばしば現れる、石のカタチの美しさや愚形といわれる効率の悪いカタチをダメ(X)の数から比較してみます。

  ++X++   +X X++    +X X++  ++XX+
  +XX+   X●●X+   X●●X+  +X●●
  +XX+   +XX+   X●●X+  ++XX+
  +XX+   ++X++  +X X ++  +XX+
  ++X++   +++++  +++++  ++X++
   5図      6図         7図     8図

 5図の3個の石のダメの数は8、これを8/3と表します
 6図は3個で7、すなわち、7/3
 7図は4個で8、ですから、8/4(=2)
 8図は3個で9、9/3(=3)

 上の分数表記は、石1個当りのダメの数を示します。

 大小の順に並べますと、8図>5図>6図>7図となり、一般にいわれている石のカタチの評価とほぼ一致します
 ちなみに6図は「アキ三角」といわれ極力さけるべきであり、7図は「ダンゴ石」とされ愚形の見本です。

 ダメすなわち気であり、石1個当りの活力の大きい石の連がカタチが良いとみなされているようです。
勿論実際の対局では相互に一手づつ着手し双方のダメの数はたえず変化するのですから単純な評価はできません。

<参考文献>
・「三日で覚えるこども囲碁わざ入門」横内猛 誠文堂新光社 20001
・「囲碁特訓 五X五 五道盤上達法」 福井正明 
  碁スーパーブックス 日本棋院 2000 (狭くても多様な変化)

囲碁散歩 (12) ―        

「ポンヌキゲーム」(5) 本格的な対局ルールへの移行

 神田のある書店の囲碁将棋コーナーで囲碁入門書を見ていたら、日本棋院の二人の営業担当者が店員に注文の書籍の納入にきていました。

 「入門書が売れているようですね」と尋ねたら、「マンガとテレビのおかげでで好調ですが、類書が沢山でまわってきました」とのこと。

 横内猛著の子供向けの囲碁入門書(2冊)は子供がおじいさんに教えるという筋書きでユニークです。さすが、安田9段とともに「ポンヌキゲーム」の実践から得られた経験でわかりやすく書かれています。

 先日(12/15)ゲーム団体の忘年会で安田9段と横内さんと同席しました。日本全国で「ポンヌキゲーム」を楽しむひとたちが増えているようですが、今後の発展継続には解決すべき問題が多いらしい。囲碁がスポーツ(体育)として世間に認められ、普及活動に教育機関や行政からなんらかの支援があるとよいのですが・・・

 以前、安田9段が、子供達に「上手の白石1個でも取れたら勝ちとする」としてゲームをしていたのを見ましたので、ぼくも試しに児童館で実行してみましたが、無理なく石を取らせるにはテクニックを要します。

 子供達は教えられながら同じゲームをしているとすぐに飽きてしまいます、20分が限度とのこと。また子供には極力負けてやらねばならないといわれていますが,わざと手を抜くのは見破られてしまいます。

 本来遊びとは遊びながら対等になるようルールを工夫していくものなのでしょう。勝ち負けが偏っては遊びではなくなります。子供にとって勉強(強いるという意味がある)となっては面白くありません。

 「ポンヌキゲーム」から 本格的な囲碁対局ルールへの移行には、石の活き死にと地の概念が必要です。それにはまづ、6路盤や9路盤で充分に練習すると良いと思います。

 9路盤でもプロ棋士同士が真剣に対局できる広さがあります。ばくは酒井猛9段に9路盤でコミなし(通常は5目半)で挑んだことがあります。コミがなければと気負ったところ簡単に負けてしまいました。

 9路盤で9子置くと超初心者でもプロ棋士と対等に対局可能です。一般に初心者はすぐ19 路盤へ移ることを求められます。恐らく9路盤では子供扱いにされていると感じられ、囲碁というゲームの奥深さをあまりご存じないからでしょう。

・囲碁ゲームの起源(1) 碁は断にあり

 1988年「日本文化界囲碁代表団」を歓迎して、中国囲棋協会の陳祖徳9段は「中国では、古来、『琴棋書画』といい、囲碁は文化の位置付けがなされてきた。今後はその方向を目指したい」と挨拶したと、白川正芳氏の著書(囲碁の源流を尋ねて)にあります。中国は中国棋院の陳祖徳院長を中心としてチェス、囲碁、象棋、五子棋(連珠)などの棋類さらにはマージャンやブリッジなどの牌のゲームで国威(?)を発揚しようとしています。

 象棋で天才的才能を示した女性がチェスに転向し女子世界チャンピオン(冠軍)を獲得し世界を驚かせた例もあります。日本語に堪能な中国棋院の王さんによると、中国棋院の予算は国際試合の多いチェスへの配分が多いとのことでした。韓国では囲碁塾が日本の学習塾のように存在しているとのことです。日本では囲碁は年寄りのボケ防止・ヒマつぶしなどと思われ若者にはあまり人気がありません。大学リーグ戦に参加する男子選手は年々減少しています。最近は囲碁や将棋以外に沢山の面白そうなゲーム類や遊びごとがあるからでしょう。

 囲碁ゲームの起源はいまだ不明な点が多く、文字の記録による歴史以前にその起源はあるはずであり、遺跡からの考古学的研究がまたれているところです。近年中国で最古とみなされる石の碁盤が発見され、その拓本が雑誌に紹介されていました。これについては後述いたします。

 まづ、白川氏の著作をとりあげてみます。白川氏は昭和12年福岡県生まれ、慶大中退、文藝評論家、作家。文壇本因坊を3期。囲碁の著書に『碁は断にあり』(三一書房)、『碁に勝てなければ他のことにも勝てない』(三一書房)があります。
 なぜ囲碁に親しんだたかを次のように書いています。「私は碁も将棋も側で見ていて覚えた。二つ年上の兄が専ら相手だった。私たちはボール紙で碁盤と碁石を作った。兄一成は、定年で小学校校長を辞めたあと、プロ棋士となった。定
年まで勤めたあとプロ棋士になったなどこれまで聞いたことがなく、新聞にも大きくとりあげられた。」

 著書名『碁は断にあり』のは当時珍しい大学卒のプロ棋士細川9段の言からであり、ぼくにとってこの本は大いに参考になりました。この本を読んでからは地(ジ)を囲むより相手に石(棋子)を囲むことに意を注ぐようになりました。中国の伝統的ルールは石の連を切断することに重きをおいています。つまり切られると相手に「切り賃」というペナルティを支払うルールになっていたからです。

<参考文献>
「囲碁の源流を尋ねて」白川正芳 日本棋院の囲碁読本5 1999
 参考文献一覧表と囲碁の略年表がついている


盤上遊戯囲碁散歩      小俣光夫(63歳) 2001.8.31発行 第34号~4512月連載